病理医ぱそ太郎の病理と日常

温泉好きのふつーの若手病理医、ぱそ太郎が病理、医療などについて日々考えることを綴ります。有益な情報を発信できればと思います。ぱそ太郎Lab.

病理検査室を作り病理医を雇うか、それとも病理学的検査として外注するか。

病院の規模により様々ですが、病理検査室を作り、病理医を雇うか(非常勤あるいは常勤)あるいは、病理検査室を作らず(標本作製も院内で行わず)病理学的検査として、病理を外注するかというのは、医療機関にとってはどちらかを選択することとなります。

 

実際のところ、例えば開業医さんのような小規模な施設で院内で病理検査室がある診療所、とういうのはないと思います。また、中小の病院では一般的な血液検査は院内でできても、病理学的検査や細菌学的検査は外注している病院が多いようです。

 

一方、ある程度の規模がある病院では、院内に病理検査室があり、病理検査に従事する臨床検査技師が配置され、病理標本作製が可能で、病理医が非常勤あるいは常勤で勤務している。ということになります。

 

両者はコストの面と医療の質の面で、施設によって選択されることになるのだと思います。

 

院内での病理に対するニーズが低い場合は(量的、質的に)、外注化されることが多いと思います。保険点数の話をすると、外注の場合は・・・今回は話を単純化するために、一人の患者さんについて、月に1回だけ、1臓器の病理学的検査が行われたとします。

この場合、保険点数では1臓器の場合、病理組織標本作成1臓器で860点数算定でき、これに加えて、病理判断料150点が算定できます。判断料は、医師の技術料ということになりますが、860点は検査そのものの点数です。つまり、検査諸々にこれぐらいの費用がかかるだろうということで、設定された点数です。実際は、登録衛生検査所は、(ここでは詳しく書きませんが)この860点よりもかなり安い値段で、検体の預かり~検体搬送~標本作製~報告書作成~結果報告までを請け負っています。

委託する側の医療機関にとっては、検査差益も含めて、数千円の収益ということになります。設備投資や人的資源への負担もありません。ちなみに、検査所で検査の判断の助言をする病理医の報酬は、検査所が受託した金額から捻出されています。860点の一部の一部、ということとなり、決して多い金額ではありません。

ちなみに、話が少し逸れますが、検査差益というのは、今ではほとんどない薬価差益と比べて世の中で話題になることは少ないですが、検査によっては、比較的差益が大きいものもある(古くからある一般的なものを中心に)・・というのが事実だと思います。一方、特殊な検査や新しい検査は差益はあまりありません。どこでも受託される検査というのは、各検査所間の競争があり、実際の受託価格は安くなります。病理標本作成は昔から技術が変わらない、材料費などもそれほどかからない検査ですので、検査差益がそれなりにある項目ということになると思います。

 

今度は、院内で病理標本を作成し、病理診断を行う施設の場合は、どうでしょうか。診療報酬の面でみていくと、標本作製料860点は同じですが、病理医が院内で病理診断を行うと、病理判断料ではなく、病理診断料が算定でき450点算定できます。合計1310点です。なお、特定の施設要件を満たした施設は病理診断管理加算が算定できるので、病理診断管理加算1を算定する施設では1310点に加えて120点が、病理診断管理加算2を算定する施設では1310点に加えて320点が加算されることになります。この中には材料費やすべての人件費などが含まれます。

 

この比較だと、ある程度のニーズがないと、設備投資や人的な資源への投資が不要で一件数千円の収益があがる病理学的検査を選択する施設が多い、というのは当然だと思います。あたかも、診断書のような、病理組織検査報告書が得られる訳ですので。

 

また、質的なニーズも低い施設では、病理学的検査の場合、基本的に依頼医と病理医がコミュニケーションを取ることが難しいですが、それほど、コミュニケーションを必要としていない可能性もあります。顔が見えない関係だと、結局は安くて、早くて、正確な結果が返ってくればそれでいいと考える依頼医がいるのも仕方ないことにように思います。

価格と報告までの時間の評価は簡単ですが、正確さの評価は一般に困難だと思います。

 

 

逆に病理医の立場としても、検査所で扱う検体の大部分は、病理医にとってストレスが少ない、また検鏡に時間のかからない、普通の検体であることが多いので、検査所でアルバイトをする病理医にとっては、時間の切り売りという点では効率がいい、と考える人もいるかと思います。

 

このあたりは、様々な人が様々な立場での長い歴史の上での、思惑があり、簡単にコメントすることが難しいところです。

 

病理診断と病理学的検査をめぐる諸問題についてはこんな記事も書いています。

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病理開業について考える時、病理診断と病理学的検査の問題を避けては取れません。

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