病理医ぱそ太郎の病理と日常

温泉好きのふつーの若手病理医、ぱそ太郎が病理、医療などについて日々考えることを綴ります。有益な情報を発信できればと思います。ぱそ太郎Lab.

病院での病理の役割と医療の中での病理診断の関わり

今回も一般の方向けの記事です。

前回からの続きです。今回は具体的な診療の流れに沿って、病院での病理の役割と医療の中での病理診断の関わりをご案内します。

具体的に病気が見つかって治療を受けた時を例にあげてに教えて下さい

例えば、患者さんが胃癌と診断され、最終的に手術を受けられた場合を書いていきたいと思います。大きく分けて、胃カメラでの最初の癌の診断の場面、実際に手術を受けられる場面、手術の後の治療や経過観察の方針を決定する場面で、病理診断は関わります。この順番にお話しします。

最初に病気が診断される場面では?

まず、はじめに、消化器内科を受診され、胃カメラを受けられた際に、胃癌が疑われる病変が見つかったとします。このときに、消化器内科の先生がカメラごしに、病変部位を数mm大の大きさで小さく採取します。この患者さんの体の一部は、病理検査に提出されます。この小さな体の一部を顕微鏡で観察可能な標本に加工した上で、顕微鏡で観察し、正常の胃の構造との違いや一つ一つの細胞レベルでの正常の細胞との違いを判断し、病気の有無を判断します。ここで病理診断の結果、胃癌と診断されたとします。

手術を受ける際には?

胃癌と診断され、手術が必要になった場合について、書いていきます。手術を外科の先生がする時に、胃を切除する範囲を決める必要があります。もちろん切除範囲は、術前に十分検討されて、手術が行われますが、癌は、時に予想に反した広がりをしていることがあります。そのため、手術中に、切除する部位と体に残す部位の境目を病理検査に提出されます。提出された胃は、手術中に迅速に標本を作製できる特殊な方法(凍結標本)で顕微鏡で観察できるように標本として作製され、切除する部位に癌が存在しないことを手術中に確認します。この手術中に行う病理診断を、術中迅速診断といいます。

手術を受けた後では?

無事、手術が終わると、切除された胃は、病理検査に提出されます。提出された胃を顕微鏡で観察し、実際に、どこまで癌が深く潜り込んでいるか、また、血管やリンパ管に癌が入り込んでいないか、などを判断します。これらの判断は、癌取扱い規約という、日本全国共通の約束に従って行います。この結果をもとに、主治医の先生は患者さんの手術を受けられた後の抗がん剤治療の必要性を判断したり、経過観察の計画を立てます。

他にもその後の治療で関わることはありますか?

コンパニオン診断ということばはご存知ですか?そもそも、一般に臨床検査とは、病気の診断をするためになされるものですが、コンパニオン診断のための検査は、少し考え方が異なっています。これは、個別化医療の一貫なのですが、お薬の効果や副作用をその患者さんの個別に予想し、治療に役立てるための方法です。もちろん、病理以外の検査もこれに利用されますが、病理でも関わります。例えば、これはほんの一例ですが、上の項目では胃癌を例に書いてきましたが、胃癌で使用されるある種のお薬は、特定のタンパク質の過剰発現や遺伝子の増幅を認める患者さんのみで有効なのですが、この有効性を予測するために、手術や生検で採取された材料を使用して、ある特定のタンパク質の過剰発現を調べることもしています。こういった、個別の患者さんの方針決定にかかわる診断も病理では行っています。コンパニオン診断は、ここ数年大きな広がりを見せています。胃癌以外でも多数のコンパニオン診断があり、特に肺癌領域では、特に急拡大しています。

他に病院の中でどんなことで医療に関わっていますか?

すべての領域でではありませんが、患者さんの治療方針を決定するためのカンファレンスやキャンサーボードが院内で開催されています。カンファレンスやキャンサーボードは、主治医の先生を含め、その患者さんに関わる様々な職種が参加しますが、そこに、病理医も病理の視点で、議論に参加します。テレビドラマフラジャイルではカンファレンスの場面が多数登場していたと思います。

ドラマや小説などで、病理解剖って聞いたこともあるのですが・・・

もしかすると、今までお話した生検や手術材料での診断の話よりも、ドラマや小説などで取り上げられることもある解剖の方が、皆さんになじみがあるかもしれません。生検や手術でだされた検体の診断以外にも、病理には大切な仕事があり、それが病理解剖です。解剖は大きく分けて3種類あり、医学生の教育のために医学部で行われる系統解剖、異状死を対象とする法医解剖、そして、病院で、病気で亡くなった方に対して行う病理解剖です。病理解剖は生前の治療効果の判定や確認、また臨床診断の妥当性の検証、画像診断と実際の病変の比較、そして、これらを通して病態のより深い理解をするために行われます。患者様がお亡くなりになった場面で、大変恐縮なことではありますが、主治医よりご遺族に解剖のお願いをさせて頂くことがあるかと存じますが、こういった事情による次第です。もちろん、ご遺族のご承諾を頂いてはじめて行えることです。病院で、どの程度、病理解剖が行われているかという割合は、臨床指標(クリニカルインディケーター)になっており、病院の医療の質の一つの指標です。

以下は一般の方に病理についてご紹介する記事です。

www.patho-spa.com

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