今日は書籍紹介です。
病理の教科書は洋書が多いですが、皮膚病理の教科書は比較的、和書も充実しています。それは、皮膚病理の本は読者が病理医だけでなく、皮膚科医も対象となるので市場が広いからではないでしょうか。そしてそもそも、皮膚科は、臨床のよい和書も他のマイナー科に比べて充実している印象があります。
ぱそ太郎は病理医ですので、主に若手病理医向けに皮膚病理のオススメ本を紹介しようと思います。また、若手皮膚科医の先生も病理は苦手という方も多いのではと思いますので、そういった先生の役にたてばとも思います。ちなみに、皮膚科専門医試験の過去問を少し拝見したことがありますが、皮膚科の専門医試験の病理の部分は、正直かなり難しいですね。病理専門医試験の皮膚病理よりも皮膚科専門医試験の皮膚病理の方がよっぽど難しいと思います。
・臨床診断からその典型的な病理像を調べる時に有用な本
「皮膚科サブスペシャリティシリーズ 1冊でわかる皮膚病理」(文光堂)
さすがに一冊でわかるということはありませんが、臨床診断名からその病理組織像を調べるには有用です。皮膚は同じ疾患でも時相によって組織像が異なりますが、その変化も記載されているのがよいです (初期像、最盛期像、晩期像のような感じで)。一冊もっておくと便利と思います。病理医の所持率は非常に高いと思います。
・皮膚病理組織像から鑑別診断を考えるときに有用な本
「エキスパートに学ぶ皮膚病理診断学 (皮膚科臨床アセット)」(中山書店)
炎症も腫瘍性病変も、実際の病理組織診断で迷うポイントの鑑別の要点が見開き数ページで完結に載っています。例えば、真皮に楔状の炎症細胞浸潤をみたときの鑑別診断は?表皮に好中球浸潤が見られる時の鑑別診断は?といったところや、腫瘍では基底細胞癌と毛芽腫の鑑別は?といった、実臨床で迷う事が多いテーマがわかりやすく記載されています。ぱそ太郎の愛用書です。ちなみに、この皮膚科臨床アセットシリーズの、「皮膚リンパ腫」も臨床病理学的に特徴的な、皮膚リンパ腫について概観するのに非常に良い本と思います。
よくまとまっている本ですが、ただし、これは2012年出版ですので、当然ながら最新のWHO2016(血液・リンパ系腫瘍)には対応していません。新しい皮膚リンパ腫の本を購入するなら後に紹介している文光堂の「皮膚リンパ腫アトラス」がおすすめです。
・Ackerman的なアルゴリズムで、鑑別診断を上げていく考え方が、比較的簡単、簡便にのっている本(Dermaの増刊号)
「わかりやすい! How to 皮膚病理」(全日本病院出版会)

わかりやすい! How to 皮膚病理 (MB Derma (デルマ))
- 作者: 山元修
- 出版社/メーカー: 全日本病院出版会
- 発売日: 2011/04/10
- メディア: 単行本
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たとえば、Superficial and deep perivascular dermaitis without epidermal changeで浸潤する炎症細胞はリンパ球が目立つときにその鑑別は?とか、interface dermatitis, vacuolar typeの鑑別は?というようかことが比較的完結にわかりやすく載っています。臨床診断がぜんぜんわからないような時などに、診断の糸口がつかめることがあります。炎症性疾患で、疾患名までたどり着かなくても、組織反応パターンまではこの本を参考にすれば書けると思います。
・皮膚軟部腫瘍について、まずは絵合わせ的に、簡潔に調べたい時に有用な本
「皮膚軟部腫瘍アトラス」(秀潤社)
もちろん、本格的に調べるときはEnzingerのsoft tissue tumorsなどの成書やWHOのsoft tissue and Boneなどをまずは調べる必要がありますし、病理医はそうやって調べればよいと思いますが、皮膚科医の先生は、軟部腫瘍については、どちらかというとあまり馴染みがないと思いますので、最新のWHO準拠で簡便にまとまっているこの本で調べて病理医に相談されればよいのではないかと思います。皮膚軟部腫瘍に特化し、説明は簡潔で、写真もルーペ像があるものが多く、疾患のイメージを短時間でつかむのには非常に有用です。
・最新の皮膚リンパ腫の和書なら・・
「皮膚リンパ腫アトラス」(文光堂)
皮膚リンパ腫は臨床像も含めて、他のリンパ腫と比べて、臨床病理学的に特徴的と思います。血液疾患としてのリンパ腫という切り口以外に、皮膚科の先生と話をするには、皮膚疾患としてのリンパ腫という考え方を持つことも大切と思います。病理医も一冊は皮膚リンパ腫の本は持っておきたいです。最近、文光堂の皮膚リンパ腫アトラスが改定されています。ぱそ太郎は前版しか持っていないのですが、和書では一番まとまっていると思います。最新のこの版は先日紹介したWHO2016血液・リンパ系腫瘍に対応して改訂されているようです。和書で一冊もっておくならこの本でしょう。
今回は、ぜひ持っておきたい皮膚病理の教科書(和書)についてでした。洋書についてもまた書きたいと思います。
皮膚病理の教科書について、著者別のおすすめという切り口で「その2」を書いています。
www.patho-spa.com皮膚病理の洋書についても紹介しています。
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