病理医ぱそ太郎の病理と日常

温泉好きのふつーの若手病理医、ぱそ太郎が病理、医療などについて日々考えることを綴ります。有益な情報を発信できればと思います。ぱそ太郎Lab.

病理診断科診療所に求められることは何か、ぱそ太郎が考える事

医行為である病理診断をすべて医療機関内で

病理診断と病理学的検査の議論には様々な歴史がありますが、流れの前提としてあることは、1989年、病理診断が医行為と認められたこと、2008年、標榜科として病理診断科が認められたこと、そしてその上で、日本病理学会の「国民のためのよりよい病理診断に向けた行動指針」2013および2015で宣言されている「医行為である病理診断をすべて医療機関内」で、という方向性です。これを推進するための一つの方法として、保険医療機関間連携による連携病理診断の中で、病理診断科診療所という一つの枠組みがあるということになります。

病理診断科診療所での連携病理診断は主治医や患者さんに本当に理解が得られるか?

上のように、病理診断科診療所での連携病理診断は、国民のためのよりよい病理診断に向けた一つの施策であるわけです。前の記事で書いたように、想定されるメリットはたくさんあります。ただし、これらは直ちに目に見えることではなく、本当に主治医や患者さんから求められているといえることなのでしょうか?現実的に、開業医さん・診療所からでる病理検体の大部分は、例えば消化器科のクリニックなら、普通の内視鏡の生検が殆どで、しかも念のため生検、というのが大部分というのが現状です。おそらく報告書のGroup分類しか見ていない依頼医の先生が大多数ではないでしょうか。念のため生検をし、Group1であることの確認、明らかに大腸の腺腫だけども念のため生検でGroup3であることの確認、そして、癌を疑って、あるいは予期せずGroup 5が出れば然るべき病院へ紹介、現在病理学的検査として処理される検体はこういった検体が多数を占めているということも実状だとも思います。診療所など小規模な医療機関から提出される病理検体で、本当に依頼医と病理医の顔が見える関係が必要であるほとの症例は、ごくわずかなのではないかと思います。また、他の診療科の話に話が変わりますが、別の例では皮膚科のクリニックでは、皮膚科の先生は自分で病理組織標本を診る先生が多いですので、病理医の病理診断を必要としていない可能性もあります。皮膚科の臨床医自らが自分で標本を見て判断する(本来の意味の病理判断料)、あるいは、報告書の内容を参考にするにしても、病理医の意見よりも、皮膚病理を専門とする皮膚科医の意見の方をより参考にしたいという皮膚科の先生もいるでしょう。実際、多くの検査所では、名の通った皮膚病理を専門とする皮膚科医を病理検査の担当医として指名することも可能です。このような現状を考えた時に、本当に、地域のかかりつけ医の先生にとって、病理診断科診療所での連携病理診断が求められているといえるのでしょうか?正直にいってぱそ太郎は、これに対して今のところ明確な答えを持ち合わせていません。もちろん、「医行為である病理診断をすべて医療機関内」でということは本当にその通りだと思いますし、病理医はそれを推進していく必要があると思います。しかし、それをかかりつけ医の先生や患者さんにどう説明し、理解して頂くかということについて、悩みがつきません。今後の課題です。

病理検査室を持たない中小の病院では需要があると思われる

 上の項目では、主に診療所での生検を例に書きました。正直に言って普通の診療所では、連携病理診断が、どれほどのニーズがあるのか、また理解が得られるのかわかりません。しかし、中小の病院など、一つの施設内で、生検診断から手術を含めた一連の診断~治療を行うけれども、病理検査室はない、という施設においては病理診断科診療所での連携病理診断は意義が大きいように思われます。それは、連携病理診断で一人の病理医が固定で担当することで、患者さんの診療の時相を踏まえた上で病理診断に関わることができる可能性があるからです。例えば、委託先の病院と契約している病理医が、生検の診断と術後の手術材料、さらには、コンパニオン診断のための免疫染色の判定、などを包括的に経過も含めて診るというようなことが、そのようなシチュエーションではできうると考えます。また、手術の際には非常勤医師として術中迅速診断も可能と思います。これを検査所に外注していた場合、生検、手術材料、コンパニオン診断すべてバラバラの病理医が診る可能性があります。前回標本も診断して患者さんの経過がわかって、その患者さんの細胞の顔もすでに知っているいる病理医の方が、その後の手術材料の診断や術中迅速診断、コンパニオン診断、すべて質が高くなるのは当然です。また、不幸にして再発された場合も、同じ病理医が担当することができます。前回との比較も容易です。つまり、主治医の先生と同じように(ワンポイントで診断しっぱなしではない)かかりつけ病理医として活躍できる可能性があるということです。これは、常勤の病理医がいる病院では普通に行っていることですが、病理医不在の病院では行えなかったことです。

こういった形が、病理診断科診療所での連携病理診断が特に望まれうるケースではないかとぱそ太郎は考えます。

 

病理診断、病理学的検査、病理診断科診療所開業、連携病理診断についてをテーマにシリーズを書きましたが、一旦このテーマは完結です。

以下のリンクはこのテーマのシリーズです。

 

www.patho-spa.com

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