病理医ぱそ太郎の病理と日常

温泉好きのふつーの若手病理医、ぱそ太郎が病理、医療などについて日々考えることを綴ります。有益な情報を発信できればと思います。ぱそ太郎Lab.

病理診断科診療所での病理診断が衛生検査所での病理検査よりも委託側医療機関や患者さんに提供できる付加価値とは?

新年明けましておめでとうございます。平成30年は診療報酬改定の年ですね。

病理ではどのような改定があるか非常に興味を持っています。個人的には、保険医療機関間での連携病理診断においては、診療情報提供料が認められるようになることが連携病理診断の枠組みを推進するために最も重要と考えています(これがないと委託側の医療機関は手間がかかるだけ)。また、保険医療機関間の連携病理診断以外にも関係することですが、病理診断管理加算の医師要件が病理診断経験年数のみではなく、病理専門医の資格でも認められるようになることも非常に望まれるところと思います。現に放射線科では、画像診断管理加算は、画像診断経験年数10年あるいは学会認定の専門医ということになっており、それとの整合性という意味でも必要なことと考えます。

 

さて今回は病理診断科診療所における保険医療機関間での連携病理診断と衛生検査所での病理検査について、委託する医療機関、衛生検査所、病理診断科診療所での診断医あるいは衛生研究所での病理検査報告書の助言に携わる病理医、患者さんのそれぞれの立場でのメリット、デメリットについて列挙し、それをもとに、病理診断科診療所での病理診断が衛生検査所での病理検査よりも、患者さんそして委託側医療機関に提供できる付加価値について、考えてみたいと思います。

ちなみに、衛生検査所で標本を診る病理医は、病理診断医ではなく、「病理検査報告書の助言に携わる病理医」というのが正確な表現です。

 

衛生検査所での病理検査の場合

メリット

・委託する医療機関: 早くて、安い(検査差益を得られる)、手間がかからない、他の検体検査と区別しなくて良い

・検査担当医: 標本を見て所見を書くだけでよい、一件いくらの従量制でありアルバイトとして行うには割りが良い場合がある、報酬として対価が得られる(事業所得として税務申告できうる)

・衛生検査所: 他の検体検査との抱き合わせで営業が可能

・患者さん: 病理診断料+病理診断管理加算1(450点+120点)ではなく、病理判断料(150点)であり安い

デメリット

・委託する医療機関: 依頼医は検査担当医と原則直接コンタクトを取れない、カンファレンスなどができない

・検査担当医: 自分の書いた所見に対するフィードバックが得られない、検査所が標本作製料として受託した費用の一部から謝金が捻出されるため、報酬が高いわけではない、検査担当医は患者情報に依頼書に記載される内容以上の患者情報にアクセスができない(個人情報の壁がある)

 ・衛生検査所: 検査担当医の確保が必要、医療機関側・検査担当医への報酬の両面での価格競争にさらされる、委託側医療機関と検査担当医の間を取り持つ必要がある

・患者さん: 基本的に病理標本を実際に見ていない主治医により病理判断料(150点)を算定されている。衛生検査所で行われる病理標本の判断の助言は、医行為としての診断ではないので、病理検査結果に対する責任の所在が不明確

 

病理診断科診療所での保険医療機関間連携での病理診断の場合

メリット

・委託する医療機関: 依頼医と診断医が直接コミュニケーション可能(ドクターtoドクター)、カンファレンスや学会写真撮影の対応も可能、検査担当医への謝金が不要になるため標本作製の受託価格が安くなりうる

・衛生検査所: 検査担当医の確保が不要

・病理診断科診療所: 医行為として責任がある診断が出来る。診療情報提供書を用いて患者情報を得ることが出来る

・患者さん: 医行為としての病理診断医の責任での診断が得られる、病院と診断医の関係がある程度固定するので、術中迅速診断も生検診断、手術材料の診断も一貫して診断が受けられうる

デメリット

・委託側医療機関: 自施設で病理標本作製が不能で、標本作製のみ衛生検査所に委託する場合検体の動きが煩雑となる(検体が病院→検査書→病院→病理診断科診療所と動く)

・衛生検査所: 検査担当医への謝金分がなくなり、更に価格競争に晒される可能性がある

・病理診断科診療所の診断医: 診療所の開設者の場合は設備投資が必要、検体搬送に関する費用を支払う必要がある、常勤医二人確保する必要がある、診療所に非常勤医師として勤務する場合、報酬ではなく給与所得となる

・患者さん: 病理判断料ではなく、病理診断料+病理診断検体管理加算1が算定されるため、費用が高くなる

 

病理診断科診療所での病理診断が衛生検査所での病理検査よりも患者さんや委託側医療機関に提供できる付加価値とは?

具体的には、患者さんに対しては、病理診断科診療所の病理医は、患者さんの病理の主治医として一貫して責任ある対応ができることとです。特定の病院や診療所の診断を担当することとなりますので、生検、手術材料の診断、また別途非常勤医師との契約によって術中迅速診断も一貫して可能です。これは大きなメリットと考えます。生検でその患者さんの癌の顔を知っている病理医が、術中迅速診断や手術材料の診断も担当する方が、それぞれバラバラの医師が担当するよりも精度が高い診断が出来ることは明らかです。また、実際はあまりないと思いますが、患者さん自ら病理医にコンタクトをとることも可能です(ただし、ぱそ太郎の私見では組織標本だけで患者さんのことが全てわかるわけではないので主治医の同席が必須と考えます)。委託側医療機関の主治医に対して提供できる付加価値としてはやはり、ドクターtoドクターでやり取りができうるという点です。病理診断は絶対ではありません。疑義や議論があるときに、直接連絡が取れるということは、医師と医師との関係では当然必要なことです。衛生検査所の場合、検査担当医とコンタクトを取るには検査所の担当の人を通じて取る必要があり制約がありました。また、直接電話で話をしたりすることは出来る場合もあったり、できない場合もあるというのが実際と思います。

現状のグレーゾーンの解消は必要

また、これは病理診断科診療所での病理診断が提供できる目に見える付加価値というわけではありませんが、今までの病理検査の枠組みでは、特に良悪に関わるような重要な判断が、医行為としての診断ではない責任の所在が不明確な病理検査報告書という形で報告されていました。これ自体、本来あってはならないことです。それでも安い、早い、簡便、問題ない程度に正確ということで、現在まで続いているのが現状です。また、病理医側の問題としても、検査所での助言行為を医行為としての診断と同じように考え、それらのことに意識を払っていない病理医がいたり、教室プローベとしての研究費の確保や個人のアルバイトとしてそのメリットを感じて、それに加担してきたという実状もあります。

また患者さん負担の費用についてはどうでしょうか。見かけの費用は高くなりますが、標本を実際に見ていない主治医に病理判断料(150点)算定されることと、病理診断を実態行っていて(450点+120点)を算定されることを比較して、一概に費用の高い低いを議論することは難しいでしょう。

 

しかし、病理診断科診療所で提供できうる付加価値は本当にニーズがあるのか

しかし、大多数の病理検査を外注している診療所や小規模の病院では、今の検体検査の一部としての安くて、早くて、簡単な病理検査そして、そのおまけとしてついてくる病理検査結果報告書で十分ニーズを満たしているというのも実際と思います。

このことは、ぱそ太郎自身もまだ明確な答えを持っていない問題です。以前のエントリでこれについて詳しく書いています。以下の記事も御覧ください。

www.patho-spa.com

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